イクイノックスの時代 – 株式会社FANSS 株式会社FANSS イクイノックスの時代 – 株式会社FANSS

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イクイノックスの時代(2023ドバイシーマC回顧)

圧倒的な、ただただ圧倒的な

2023年3月25日(日本時間25日〜26日)はドバイワールドカップデーであった。アラブ首長国連邦のドバイで、4レース連続で高額賞金のG1レースが開催された。最初のドバイゴールデンシャヒーン(ダート1200m)では、日本馬は5位が最上位であった。次のドバイターフ(芝1800m)では、直前でダービー馬ドウデュースがハ行で出走取消となるも、ダノンベルーガが2着に入って意地を見せた。

そして迎えたドバイシーマクラシック(芝2410m)。私のお気に入りのイクイノックスが出走した。そして圧倒的な強さで楽勝した。直線はムチを入れずに持ったままで突き放すと、残り100m地点ではルメール騎手が背後を振り返る余裕もあった。ルメール騎手は勝利を確信したのか手綱を緩め、最後は流しながらゴールしたが、なんとレコードタイム。調教かと思わせるほどの楽勝。日本時間深夜1時であるが、まさに目の覚めるようなパフォーマンスだった。

これまでブラックタイド 〜 キタサンブラック 〜 イクイノックスと連なる血統に触れながら、イクイノックスの素晴らしさについて書いてきたが、ここからが本当のイクイノックス時代が始まると感じている。父キタサンブラックは、3歳時のG1成績は4戦1勝(3着2回)、4歳時のG1成績は4戦2勝(2着1回、3着1回)、5歳時のG1成績は6戦4勝(3着1回)と、古馬になってからより強くなった。

イクイノックスはというと、3歳時のG1成績が4戦2勝(2着2回)である。ここから父と同じような成長曲線を描くと想定すると、4歳でも5歳でもG14勝以上を期待できることになる。いや万が一成長しなくとも、今日のレースで見せたパフォーマンスを維持するだけで、あと5、6回はG1を勝てるはずだ。それぐらいの強さだった。

思い返せば、イクイノックスがデビューする年の2021年、キタサンブラックの種付料は300万にまで下落していた。とはいえ最初の種付料も500万円と、現役時代に最高獲得賞金を更新した名馬としては異例の人気のなさであった。これは勝利したG1レースが長距離が多く、スピード型というよりスタミナ型と思われていたこと、また3歳クラシックも菊花賞のみしか勝てなかったことが影響している。馬主は3歳の日本ダービーを勝つことが最大の名誉なので、3歳春から活躍できる仕上がりの速さがないと、馬主から人気になりづらいのだ。そして馬主から人気がないと馬が売れないため、生産側も敬遠しがちになってしまうのだ。

イクイノックスは2歳で、新馬戦と東京スポーツ杯2歳ステークス(G2)を楽勝した。さらに東京スポーツ杯ではラスト3F32.9秒という圧巻のスピードを披露したことで、父キタサンブラックの評価を高めることになった。スピードが不足しているのではないか、そして仕上がりが遅いのではないか、という疑惑を両方とも払拭できたことがとても大きい。これで2022年のキタサンブラックの種付料は500万に戻った。

明けて3歳。イクイノックスは皐月賞とダービーに挑むが、大外枠に泣かされたか両方とも2着に敗れた。個人的には皐月賞は久々の影響とゴール前の坂、ダービーは騎手のミスと思っているが、負けたことは事実である。このままでは自身の評価も父の評価も中途半端なものになっていたかもしれないが、ここからが凄かった。

秋を迎えて成長したイクイノックスは、天皇賞(秋)で年上の古馬に挑んだ。天皇賞(秋)は東京競馬場で2000mで開催され、ごまかしがきかないG1として認知されている。コースも広く、最後の直線も長いため、展開や枠順の有利不利が少なく、強い馬が勝つレースである。詳細は割愛するが、イクイノックスは勝った。とんでもないレースをして勝った。

そして年末の大レース有馬記念に挑むのである。これも詳細は割愛するが、最終コーナーを回った手応えは、1頭だけ別の生き物に見えるほどであった。イクイノックスは3歳で天皇賞(秋)と有馬記念を制するという偉業を成し遂げ、年度代表馬に輝いた。父キタサンブラックの種付料は、1000万に倍増した。

そして今日、日本最強馬が世界最強馬へと変貌した。ドバイシーマクラシックをただ勝ったわけではない。圧倒的に、ただただ圧倒的に勝利したのである。イクイノックスが与えたインパクトは計り知れない。ドバイワールドカップデーのG1レースを見ていない競馬関係者などいないのだから。

日本競馬を進化させたサンデーサイレンス、そしてその最優秀後継馬であるディープインパクト、このサイアーラインが発展していくことは必然のように思っていた。ディープインパクトの影に隠れた兄ことブラックタイドから、これほどの名馬が誕生しようとは想像すらできなかった。

しかし革命は常に辺境から起きるものである。ディープインパクトの輝きによって辺境に追いやられていたブラックタイドが、キタサンブラックで小さな革命を起こし、さらにまたイクイノックスで世界に革命を起こした。これだから競馬は面白い。

イクイノックスの活躍によりブラックタイド系が覇権を握った数世代後に、今度は辺境に追いやられたディープインパクト系の革命を見てみたい。願わくば、それまで自分が健康で生きていますように。

 

(文責)岩永

 

2023年3月26日 3:31