天体観測から始まった占星術が占いの起源ですが、肉眼で視認できる天体の運動がほぼ全て解明された現代において、なぜ未だに占いが人気なのでしょう。
天空には神がいると考えられていた時代に、星や天体の動きが現実世界の予兆になっているという考え方が広く受けれいられるのは理解できます。しかし現代日本で、火星や金星などの惑星の見える位置が変わったからといって、現実世界の予兆である、と考える人は稀でしょう。
にもかかわらず、占星術はさまざまに形を変えて、今での私たちの生活のすぐ横に「◯◯占い」として生き続けています。もちろん大多数の人は、生活を彩る一つのスパイスとして、適度な距離感で(あるいは眉に唾をつけながら)楽しんでいるだけです。
一方で、成功を掴んだ権力者や経営者の中には、占いに傾倒してしまう人がいます。不思議なのは、ビジネスの世界で冷静かつ大胆な判断力で生存してきた経営者が、時に占いから離れられなくなってしまうという事実です。彼らは何を得るために占いを聞くのでしょうか。
私見ですが、そこにはいくつかの要素があると考えています。まず、権力者や経営者は孤独です。自らの判断で全てを決断しなくてはなりません。そして現実世界はやり直しがききません。つまり、結果に対する責任は全て自分が背負うことになります。
占いには、この精神的な負担を少しだけ軽くしてくれる効果があります。意見の対立から感情的になり、強い言葉をぶつけてしまった結果、優秀な部下を失った場合を考えてみます。「自分に分別が足りなかった」と反省するよりも、占い師に「1年前に大事な存在と離れるようなことがありませんでしたか?辛い別れの時期、と出ていますよ」と言われて、星回りのせいだったのかと考える方が楽ですよね。どうせ現実は変わらないわけですから。
そしてもう一つ、権力者や経営者は、不確実な未来を予想して、向かう方向を決断しなければいけない、という点があります。有識者が、株や為替の値動きを解説するように、過去の事例を論理的に分析することは簡単ですが、未来のことを論理的に予測するのは不可能です。偉大な投資家であるウォーレン・バフェットですら、何度も失敗しています。
そして、不確実な未来に対して、自分が全ての責任を負って、決断を下さなければいけない、という時に、占いは役に立つのです。少し横道にそれますが、「どんな理由でも、理由をつけるだけで、お願いが聞いてもらいやすくなる」という行動経済学の知見があります。
見知らぬ人から「すいません、お昼を奢ってもらえませんか?」と頼まれるよりも
「すいません、お腹が空いているので、お昼を奢ってもらえませんか?」とか、
「すいません、朝ご飯を食べていないので、お昼を奢ってもらえませんか?」あるいは
「すいません、会社を早退したので、お昼を奢ってもらえませんか?」
というように、理由があるだけで受け入れてもらえる確率が上がるということです。
人間は、行動に際して理由を欲する生き物である、という事でしょう。というわけで、経営者も、不確実な未来に向かって正解のわからない決断を下す際に、つい「理由」が欲しくなってしまうのだろう、というのが私の推論です。
偽薬(プラセボ)を飲ませるだけで症状が軽くなる患者がいるように、本来は全く効果のないものでも、思い込みの力によって改善するという事があります。逆に言えば、症状が改善した患者がいても、その薬に本当に効果があるかは分かりません。
占いとはそんなものじゃないかな、というのが私の結論です。たとえ偽薬だとしても一定数には効果があるのだから、信じる者は救われる、とは良く言ったものですね。
(文責 岩永)
2023年2月10日 22:39